大田原市芸術文化研究所を訪ねて

Lee Loo オンラインギャラリー 隠れた名作に出会える アートを訪ねて

美術団体をご紹介するこのシリーズ。前回は全国規模の公募展「二紀会」と「二科会」を並べてお話ししましたが、今回は少し視点を変えて、栃木県の小さなまちにある一風変わった団体を訪ねてみます。その名も大田原市芸術文化研究所。なんと、廃校になった中学校の校舎がまるごと、芸術の拠点に生まれ変わった場所なんです。

大田原市芸術文化研究所の建物全景、特徴的な近代建築

実は、わたしがまだ印刷会社にいた頃、この大田原で開かれるアーティスト・イン・レジデンスの図録など、印刷物のお手伝いをしたことがありました。研究所に勤めていたわけではありませんが、印刷を通して作品や作家に関わった、その縁が、いまの Lee Loo につながるきっかけのひとつになっています。だから今回は、少しだけ個人的な思い入れのある場所のご紹介です。

廃校の校舎から生まれた、芸術の研究所

大田原市芸術文化研究所があるのは、栃木県大田原市中野内580。この建物は、もともと廃校となった旧両郷中学校の校舎です。使われなくなった学び舎を取り壊すのではなく、「芸術文化を研究する場」として再生させたところに、この研究所の出発点があります。

その根底には、「人はゆったりとした時間の中で、良質な人間環境を守り育てなければならない」「芸術は、人が正しく生きる方向を決める情操を育む」という考え方があります。効率やスピードとは少し距離を置いた、地方だからこそ実現できる時間の流れの中で、市民のための芸術文化を育もうという姿勢が貫かれています。

第12回ゲタ箱展、ゲタ箱に展示された作品の全体

那須野が原国際芸術シンポジウムという歩み

この団体を語るうえで欠かせないのが、那須野が原国際芸術シンポジウムの歩みです。彫刻を軸に、国内外から作家を招いて滞在制作を行い、生まれた作品を地域に残していく——そんな取り組みが重ねられ、のちに国際色を強めながら、彫刻の枠を超えた芸術交流の場へと広がっていきました。地方都市でありながら、国内外の作家が行き交う場を長く続けてきたこと。その積み重ねが、いまの大田原市芸術文化研究所の土台になっています。

完成品ではなく「制作の現場」を見せる

研究所の魅力は、いわゆる「きれいに完成した作品」だけを並べる美術館とは一味違うところにあります。館内にはギャラリーだけでなくアトリエ(工房)があり、制作途中の作品があちこちに置かれている——そんな「創作の現場」に立ち会えるのです。作品がどのように生まれていくのか、そのプロセスごと味わえるのは、作家と場が一体になったこの施設ならでは。訪れる人にとっては、完成品を鑑賞する以上の刺激があります。

大田原市芸術文化研究所の1階ホール、吹き抜けと展示作品

工房は市民が芸術活動のために借りることもでき、彫刻・絵画・工芸などの講座も開かれています。さらに、小中学生の夏休みの工作やポスター制作について相談に乗る取り組みまで行うなど、地域の暮らしにしっかり寄り添っているのも印象的です。

市とともに歩む ― アーティスト・イン・レジデンス

大田原市芸術文化研究所は、市とも深く結びついた公的な芸術団体です。その代表格が、アーティスト・イン・レジデンス大田原。国内外の作家を一定期間まちに招き、滞在しながら制作してもらう事業で、今年で第8回を数えます。かつてわたしが図録の印刷を担当していたのも、この滞在制作の記録でした。夏には制作の過程を公開する催しや、子どもたちと作家が一緒に楽しむワークショップなどが開かれ、生まれた作品が研究所の中だけでなく、市街地の空間にまで広がっていくのも、この取り組みならではの面白さです。

そして今年の見どころが、この秋の展覧会。公開制作で生まれた作品や研究所講座の作品を集めて、11月7日(土)〜15日(日)(10:00〜16:00)に開かれます。まさに一年の集大成であり、「いま動いている芸術の現場」の成果に、まとめて出会えるタイミングです。

第8回アーティストインレジデンスのポスター

なお、この研究所を舞台にした企画展として、下駄箱を展示什器に見立てたユニークな「ゲタ箱展」もあります。こちらは Lee Loo でも以前くわしくご紹介しましたので、よければあわせてご覧ください。
※ゲタ箱展レポート前編・後編はこちらから

訪ねてみたい人へ

「見る」だけでなく「つくる」「学ぶ」「交わる」が同居する大田原市芸術文化研究所は、アートを身近に感じたい人にこそおすすめしたい場所です。派手さよりも、時間をかけて芸術と向き合うことを大切にするこの拠点。栃木を訪れる機会があれば、ぜひ「創作の現場」の空気を味わってみてください。

  • 所在地:栃木県大田原市中野内580(旧両郷中学校)
  • 電話:0287-59-0004
  • 開館時間:9:00〜17:00
  • 休館日:火曜・水曜、年末年始(駐車場あり)

企画展やイベントの開催時期は変わるため、訪れる前に大田原市の公式サイトや研究所の情報を確認しておくと安心です。

Lee Loo 恭子

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