美術彫刻入門 ─ 素材の違い

Lee Loo オンラインギャラリー 隠れた名作に出会える アートを訪ねて

彫刻と聞くと、大理石の像やブロンズの胸像を思い浮かべる方が多いかもしれません。ですが「美術彫刻」とひとことで言っても、その素材はさまざまです。陶彫、木彫、テラコッタ、ブロンズ。素材が変われば、作り方も、手ざわりも、飾ったときの印象も変わります。

わたしは前職の印刷会社で、美術団体の作品を撮影する仕事に関わっていました。彫刻を撮るときは、少し暗めに撮影する。そうすることで、木目の美しさや陶彫の質感が、実物に近い状態で写るからです。素材によって光の受け方がまるで違うことを、そのとき知りました。

今回は、美術彫刻の代表的な素材を、できるだけやさしく整理してみます。

彫刻には「削る」技法と「足す」技法がある

まず大きな分かれ道として、彫刻には二つの作り方があります。

ひとつは、石や木のかたまりから余分を削り取っていく方法。もうひとつは、粘土などを盛って、形を足していく方法です。

木彫や石彫は前者、つまり「減らす」彫刻です。一度削った部分は、もう戻せません。

一方、陶彫やテラコッタは、粘土から形を作る「足す」彫刻にあたります。ブロンズも、いったん作った原型を型に取り、そこに金属を流し込んで作ります。

削るのか、足すのか。この違いを知っているだけで、作品の前に立ったときの見方が変わります。

木彫 ── 木の種類と、彫り跡に見えるもの

木彫は、木を彫って作ります。

木は種類によって、木目も色味も硬さも違います。同じ木がふたつとありません。ですから木彫は、素材の時点ですでに一点ものです。

わたしが木彫を見るときに注目しているのは、作家それぞれの彫り方 です。彫る向きや角度によって、木の削れ方は変わってきます。だから彫り跡には、その作家がどう木と向き合ったかが残ります。

同じモチーフでも、作家が違えば表面の表情はまったく違うものになります。木彫を見るときは、少し近づいて彫り跡を見てみてください。

Lee Loo でご紹介している 田中 茂 も、木彫と陶彫の両方で制作されている彫刻家です。

陶彫とテラコッタの違い

陶彫とテラコッタは、どちらも土を焼いて作る彫刻です。器や食器をつくる陶芸とは違い、あくまで立体作品としてつくられます。よく似た二つですが、はっきりとした違いがあります。

その前に、粘土でつくる彫刻の工程を少しご紹介します。粘土素材のものは、彫るというより 成形します。そして中を空洞にくり抜き、乾燥させてから焼く。この工程を経て作品になります。

焼いている最中に、割れてしまうこともあります。そこに生まれたヒビも、粘土ならではの質感を感じられる特徴のひとつです。

陶彫 は、粘土で形を作って焼き、多くの場合は釉薬(うわぐすり)をかけて本焼きします。釉薬をかけると表面がガラス質の膜でおおわれるため、汚れがつきにくくなります。日本には 日本陶彫会 という美術団体があり、「陶」による立体表現を長く続けています。

テラコッタ は、イタリア語で「土を焼いたもの」という意味です。釉薬をかけない素焼きが基本で、陶器より低い温度で焼かれることが多く、あたたかみのある赤茶色が特徴です。焼く温度によって、色も硬さも変わります。

同じ土でも、釉薬をかけるかどうか、どの温度で焼くか。そのわずかな選択で、作品の表情は大きく変わります。

ブロンズ ── 鋳造という技法

ブロンズは、銅と錫を中心とした合金です。原型を型に取り、金属を流し込む鋳造という技法で作られます。丈夫で長く残るため、屋外の彫像にも古くから使われてきました。

作り方の違いが、そのまま質感の違いになります。

テラコッタが暮らしに馴染む理由

キュレーターとして、わたしが特に惹かれる素材は テラコッタ です。

粘土素材だからでしょうか。作品のフォルムにしなやかさがあり、角をあまり感じさせない柔らかい雰囲気があります。だからリビングに飾っても、本当に自然に部屋に馴染みます。

テラコッタの色そのものも好きで、手に取る作品はテラコッタが多くなりました。

飾る場所は、素材によって変わる

素材がわかると、置く場所も選びやすくなります。

特に 割れやすい素材の作品は、飾る場所をよく考えることをおすすめします。重心が不安定なものや陶彫などは、間違えて触ってしまったときに破損することも考えられます。

避けたほうがいいのは、高い場所、ペットが触りそうな場所、そして十分な展示スペースが取れない場所です。

それでも人目につくところに飾りたい場合は、ショーケースに入れて飾る という方法もあります。作品を守りながら、見せることができます。

素材を知ると、美術彫刻の見え方が変わる

作品を選ぶときは、まず「好き」と思う気持ちを大切にしてください。

そのうえで素材のことを少し知っていると、作家がなぜその素材を選んだのかまで見えてきます。彫り跡や焼成のヒビといった、一見すると「不完全」に見えるものが、その素材ならではの魅力だと分かるようになります。

Lee Loo では、彫刻をはじめとした立体作品にたずさわる作家をご紹介しています。どんな方が制作しているのかは、Artists 一覧 からご覧いただけます。

── Lee Loo 恭子

タイトルとURLをコピーしました