先週は、Lee Loo でご紹介している彫刻家・田中 茂の「化けそこなった狸」についてお話ししました。
動物をモチーフにした彫刻は、作家の個性がもっとも表れる世界だと、わたしは思っています。同じ「猫」を作っても、作家によってまったく違う姿になるからです。今回は、わたしがご縁をいただいてきた、動物を彫る作家を何人かご紹介します。
内田充 ── あそび心のある猫
まずは、多摩美術大学出身で、栃木県造形協会の会員でもある内田充です。
内田さんの作品で、わたしがずっと手元に置いているのが「猫金庫」です。黒白の猫がうずくまった姿なのですが、これがただの置物ではありません。猫のお腹の部分が鍵で開く設計で、金庫として本当に成り立っているのです。素材は楠材とアクリルです。
わたしはこの猫に「大福諭吉」という名前をつけて、お金を保管していたことがあります。作品を暮らしのなかで、こんなふうに楽しめる。それも一点ものの彫刻ならではです。
もうひとつ、仰向けになった猫が四本の脚でガラス天板を支える「猫脚テーブル」という作品もあります。こちらも楠材とアクリル。毛並みの一本一本まで塗り込まれた、写実的でユーモラスな一点です。
内田さんの猫の魅力は、なんといっても実物と間違えるほどの表情の表現力です。ここまで猫の表情を捉えられるのは、内田さん自身も猫が好きで、よく観察されているからではないか。わたしはそう思っています。
内田さんは石彫の作品も手がける作家ですが、ゲタ箱展や、子どもや学生に立体のたのしさを教える造形協会の展覧会では、こうしたあそび心のある作品を発表されています。


市村多眞美 ── 鳥から、アザラシまで
市村多眞美は、二紀会の彫刻部会員で、栃木県の作家です。今年度からは、大田原市芸術文化研究所の所長も務めています。
市村さんの動物は、モチーフの幅がとても広いです。虎、兎、麒麟、そして鳥。首の長い大きな鳥を、流木のような素材を組み合わせて組み上げた大作もあります。
わたしが特に好きなのは、床に寝そべるアザラシの作品です。つぶらな瞳と、やわらかそうなフォルム。見ているだけで、頬がゆるみます。市村さんの作品は第76回二紀展で恩田賞を受賞しています。
大作の一方で、最近は金魚や猫といった小さな作品も、個展などで見ることができます。わたしも、市村さんの猫の作品を購入しました。見上げるような大作から、手のひらにおさまる小品まで。どれも市村さんの世界です。
作品は 二紀会の市村多眞美ページ でもご覧いただけます。


角谷琴音 ── 金属で象る、生きものたち
角谷琴音は、二紀会の彫刻部準会員です。
犬、猫、狸、鹿。角谷さんは、さまざまな生きものを金属で象ります。「息吹」という鹿の作品、「ブラックバック」という羚羊(レイヨウ)の作品、「その先へ」という犬の作品など、動きのある姿が印象的です。金属の板を組み合わせて作られた表面には、独特の質感と迫力があります。
角谷さんは少し前から猫をお迎えしていて、最近は猫のモチーフの作品も増えています。そして、角谷さんはデッサンもとても素晴らしい作家です。生きものをよく見て、その骨格や動きを掴んでいる。だからこそ、あの金属の生きものたちが、今にも動き出しそうに見えるのだと思います。
作品は 二紀会の角谷琴音ページ でご覧いただけます。
改鉄成 ── 絶滅危惧種への、まなざし
最後に、二紀会の彫刻部会員・改鉄成です。
改さんの作品は、他の作家とは少し違う視点を持っています。モチーフに選ぶのは、絶滅危惧種の動物や、古代の生きものです。
「頑張れ絶滅危惧種:シルバーバックゴリラ」「頑張れ!絶滅危惧種(鎧サイ)」「進化(センザンコウ)」、そして古生代の魚をかたどった「『ダンクレオステウス』お久しぶり」。どれも見上げるほどの大作で、本当に大きく重たいものが多く、毎回、圧巻の存在感です。
そして、改さんの作品は子どもに大人気です。ゴリラやサイを前にすると、「乗りたい!」というリクエストが飛び交うほど。作品でありながら、子どもたちを惹きつける力があるのです。作品タイトルに込められた「頑張れ」という言葉にも、改さんの生きものへのまなざしを感じます。
作品は 二紀会の改鉄成ページ でご覧いただけます。
実物を見られる展覧会
同じ「動物」を彫っても、作家が違えば、これほど世界が変わります。動物の姿を借りて、作家それぞれが自分の世界を表現している。わたしは、そこに彫刻のおもしろさを感じています。
ご紹介した作家の作品は、写真や画面ではなく、ぜひ会場で見ていただきたいものです。実物の大きさや質感は、その場に立ってはじめて伝わります。近く開催される展覧会をいくつかご案内します。
第79回 栃木二紀展
2026 年 8 月 15 日(土)〜 19 日(水)/栃木県総合文化センター 第4ギャラリー。二紀会栃木支部の絵画・彫刻の展覧会です。市村さん・角谷さん・改さんの作品にも出会えます。
第79回 二紀展(全国)
2026 年 10 月 14 日(水)〜 26 日(月)/国立新美術館(東京・六本木)。全国の作家の絵画・彫刻が一堂に並ぶ、二紀会の主要展覧会です。
栃木県彫刻造形協会展
例年 1 〜 2 月頃、栃木県総合文化センターで開催されています(次回の会期は未定)。内田さんが、あそび心のある作品を発表されることがあります。
市村さん・角谷さん・改さん、そして田中 茂は、二紀会や日本陶彫会、栃木県彫刻造形協会などで繋がりのある作家たちです。栃木という土地に、これだけ豊かな彫刻の世界が広がっていることも、知っていただけたらうれしいです。
Lee Loo でご紹介している作家は Artists 一覧 からご覧いただけます。
── Lee Loo 恭子

