先週は、Lee Loo に出展してくださっている写真家・遅道さんについてお話ししました。そんな遅道さんは尊敬している写真家に、森山大道がいます。
今回は、その森山大道の写真がなぜここまで評価されているのか、出典をたどりながらご紹介します。
「アレ・ブレ・ボケ」というスタイルの革命
森山大道のモノクロ写真、いわゆる白黒写真のスタイルは、「アレ・ブレ・ボケ」の三語で語られます。
- アレ:画面のザラつき、高感度フィルムの荒い粒子
- ブレ:被写体や手の動きによる像のブレ
- ボケ:ピント外れ
通常、これらは「写真の失敗」とされるものです。ところが森山大道は、これらを意図的に「写真の美しさ」として提示しました。ときにファインダーも覗かず、腰だめにカメラを構え、走行中の車の中から街を撮る。
なぜこれが革命的だったのか。
1950 年代の日本写真界は、土門拳などが牽引した「リアリズム写真運動」が主流でした。「写真は社会の真実を鮮明に、客観的に記録するべきもの」という考え方です。森山大道の「アレ・ブレ・ボケ」は、この 「鮮明さ = 真実」という前提そのものを破壊 しました。写真とは、見えたものではなく、感じたものを写す媒体である。そう位置付け直したのです。
『プロヴォーク』── 現代日本写真の分水嶺
1968 年、写真雑誌『プロヴォーク』(Provoke)が創刊されます。中平卓馬、多木浩二、高梨豊、岡田隆彦らが立ち上げ、森山大道は第 2 号から参加しました。
サブタイトルは「思想のための挑発的資料」。3 号だけで終わった小さな雑誌ですが、その後の日本写真の 70 〜 80 年代全体に影響を与えました。「写真は何かを伝える道具である」という前提を根本から覆し、写真そのものを 思想と感情の記録 として位置づけ直したのです(MoMA 解説記事)。
「三沢の犬」── 森山大道の自画像
森山大道の代表作といえば、「三沢の犬」(1971 頃)です。青森県三沢、米軍基地の町で朝方に出会った野良犬をとらえた 1 枚。
頭を下げ、口を開けてこちらを見る野良犬。森山自身が「アウトサイダーとしての自画像」と語る作品で、ニューヨーク近代美術館 MoMA が所蔵しています(MoMA コレクションページ)。戦後日本と米軍基地文化のはざまで生きる存在を、犬という無言のモチーフに写し取った傑作です。
世界が認めた写真家
森山大道は、海外の主要美術館・写真賞から次のように評価されています。
- 1974 年、MoMA の記念碑的展覧会「New Japanese Photography」で欧米に紹介される
- MoMA、シカゴ美術館、SFMOMA、東京国立近代美術館などが作品を所蔵(MoMA 森山大道作家ページ)
- 2012 年、ICP インフィニティ賞 生涯功績部門 を日本人として 初めて 受賞(ICP 受賞ページ)
- 2019 年、「写真界のノーベル賞」と呼ばれるハッセルブラッド国際写真賞を受賞
ハッセルブラッド国際写真賞の日本人受賞者は、森山大道以前に濱谷浩(1987 年)、石元泰博(1996 年)の 2 人だけ。森山大道は 日本人として 3 人目 です。彼が「日本の一作家」ではなく、20 世紀写真史の主要人物 として世界に位置付けられたことを意味します。
「光と時間の化石」── 森山大道の思想
森山大道は、写真をこう定義しました。「光と時間の化石」。写真とは、世界を美しく解釈する二次元作品ではなく、世界の断片と自分の時間感覚が交差した瞬間の記録である、と。
だから彼のフレームには、完璧な構図や鮮明なピントはいりません。むしろそれらは「作家の解釈」が過剰に入り込むノイズだと考えたのです(Aperture 森山大道インタビュー)。
森山大道の相棒 ── リコー GR というカメラ
森山大道が長年愛用しているカメラは、リコーの GR シリーズ です。
コンパクトで軽量、そしてポケットに入るサイズ感。それでいて画質は妥協せず、瞬時の反応が要求される街頭スナップに向いた設計。「腰だめで街を撮る」森山大道のスタイルは、この GR というカメラと切っても切り離せません。
森山大道の粗いモノクロを自分でも撮ってみたい方には、まずリコー GR を手にとってみるのがおすすめです。
森山大道の世界に触れる ── 代表的な写真集
森山大道の写真は、単独の 1 枚よりも 写真集としてまとめて見る ことでその真価が伝わります。彼自身、写真集そのものを 1 つの作品として作ってきた作家です。手にとって、モノクロの実物を感じてみてください。
- 『犬と網タイツ』
「野良犬」や「網タイツ」など、森山作品の代名詞とも言えるモチーフが詰まった代表作。
→ Amazon で見る - 『光と影』
森山大道の写真における最高傑作の一つと称される作品。
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遅道さん、そして Lee Loo へ
Lee Loo に出展中の写真家・遅道さんは、この森山大道の系譜の先で、モノクロ写真を撮り続けている作家です。わたしがカメラマンとして働いていた頃から、遅道さんの黒の濃度と粒子の残し方には、森山大道の「粗いモノクロ」との共通点をずっと感じてきました。
もしよろしければ、遅道の詳細ページ で作品をご覧ください。ほかの作家は Artists 一覧 から、写真作品は Gallery からどうぞ。
── Lee Loo 恭子

